京極夏彦 『後巷説百物語』

 これでシリーズ3冊読了。
 最初はこの『後巷説〜』になったらいきなり明治の世になっていて、怪異な事件を百介の昔語りを通して落ち着くべきところへ落ち着かせる、という方式に馴染めなかったのですが、最後まで読んでみるとこの方式の転換も著者の意図するところだったと分かりますね。
 江戸時代に小股潜りの又市が行った「仕掛け」は、怪異な現象を現実レベルに持って来ることで事態の収束を図り、明治の世になってからは事件に見え隠れする怪異な現象を現実レベルに分解する―京極堂のシリーズの方式へと転換していくんですね。
 その辺、時代の境目というものを浮き彫りにしていますが、又市の「仕掛け」が胸躍るものであるがゆえに、ちょっと寂しさも感じてしまいます。
 あくまでこれは「後巷説(「のちの」巷説)」なんだなぁと納得させられました。

 そんなわけで途中まで、前作に比べてどこか物足りないものを感じていたのですが、最終話での物語りの閉じ方があまりにも鮮やかで、読み終えてみれば物足りなさなんて残りませんでした。
 こんなに見事な終わり方をする作品を読んだのも久しぶりだなぁという感じです。

 もっとも、やはり百介は関わることの出来なかった江戸城を舞台にした又市の大仕掛けやら、後手に回ったがために人を死なせてしまったという又市の苦い経験やら、読んでみたいんですけどね。
 その意味で『拾遺巷説百物語』とか、出てくれたら嬉しいなと思ったみたり。