米澤穂信 『さよなら妖精』

 別段殺人事件が起こるわけではないし、いわゆる「日常の謎系」とも少し違いますね。
 ミステリの部分というのは、主人公達が出会ったマーヤというユーゴスラビアから来たという少女についての最終的な謎と、マーヤが彼らと過ごしていた日々の中で見かけたちょっとした日常の謎みたいなもの。どれも本当に良く出来た論理パズルみたいで、その辺も面白かったです。
 でも何といってもこの本、「物語」として好きです。


 読んでいて思うのは、私達は世界で起こっていることについてあまりにも物を知らな過ぎる、ということ。
 これってもしかすると残酷な事実なのかもしれません。
 旧ユーゴスラビアの国々について知らないというだけじゃなく、実は日本の事だって良く知らなかったりしますね。「日本の正式名称は何か」という問いに、「大日本帝国」と答える社会人だっていたりするんですから。
 例えば物語の中で訊ねられたように、外国人から日本のことを質問された時に主人公達ほどの答えが返せるだろうかと思うと、結構難しいんじゃないかと思います。
 そしてこの物語の舞台となっている1991年〜1992年にかけて表面化した、旧ユーゴスラビアの崩壊について、気が付けばその後どうしたのかも自分の中では曖昧だったりします。昔から「ヨーロッパの火薬庫」だったこの地域では、未だに安定しているとは言い難い地域が多いようです。
 この10年くらいの間というのは、ユーゴの紛争だけじゃなく、中東では湾岸戦争もあったし9.11から続くアフガンでの戦争や昨年のイラク戦争もありましたし、他にも東ティモールの独立だの、世界地図が変わる出来事が随分とありました。逆に旧ユーゴスラビアのすぐ隣ではEUが問題を抱えながらもひとつの方向に向かって足並みを揃えようという試みをスタートさせていたり。
 そんな中で、いつの間にか忘れてしまったものも多いんでしょうね。


 何だか感想にもなっていない挙句長くなってしまったのでこの辺で。