鳥飼否宇 『中空』

中空 (角川文庫)

 著者のデビュー作ということで、それなりに力が入り過ぎたところも感じられますが、うれしいまでの本格テイストを最後まで楽しめた1冊。
 一般社会とは断絶された山奥の村で、独特の文化を守り続ける小さなコミュニティという中で事件が起こり、村長の命令で村は封鎖状態になるという、あまりにリアリティが無いが故に、かえって物語の中ではすんなり受け入れられてしまうクローズド・サークルもの。
 けれども、こうした極限状態の中で疑心暗鬼になって、いつ犯人に誰が殺されるかと戦々恐々とした緊迫感というのは、本書の中には殆ど感じられません。
 全体的に文章から受ける印象も含め、サラリとした雰囲気で非常に読み易いのですが、人によってはどこか物足りない印象も受けるかもしれません。
 結末の謎解きに関して言えば、面白い部分もあるのですが、あまり意外性は感じられず、インパクトは薄かったのが残念といえば残念。
 それでもこの作品に終始一貫して存在する「本格っぽさ」は、未消化ながらも好きな雰囲気でした。