米澤穂信 『犬はどこだ』

犬はどこだ (ミステリ・フロンティア)

 これまでの米澤作品と違って、主人公は成人男性。順風満帆の安定した人生のレールからはドロップアウトした、自ら"リハビリ中"と称するような少々斜に構えて、あまりやる気の無い、犬探し専門の探偵です。
 それがひょんなことから専門外の依頼を2件も受けてしまい、望んでもいない押しかけ助手と手分けをして依頼を果たしていく…と、パーネル・ホールのスタンリー・ヘイスティングシリーズのようなテイストも併せ持つ1冊です。
 当然結び付くだろうとの予断を持って読まれる2つの依頼ですが、繋がりが読者には見えているのに登場人物には中々伝わらないという、非常にもどかしくも上手い演出ですし、繋がってからの展開の加速のタイミングといい絶妙だなと思わされます。
 物語は地道な捜査の積み重ねで構成されていますので、個別のエピソードは非常に地味なものが多いのですが、これらの組み合わせや使うタイミングが非常に効果的ですね。
 必ずしも万事解決した、とは言い難い結末なのですが、これがまた綺麗な結末だと評価せざるを得ない終わり肩になっています。この結末もタイトルと最後の一文とが全て結び付いた時に絶妙の味となって、しっかりと読後感が刻み込まれた1冊でした。