桜庭一樹 『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない


 ライトノベルで扱うにはギリギリの重さを持つ話なのに、こういったジャンルで要求されている点、要するにキャラクターが立っていて、あまり生々しくなく軽く読ませるという点をクリアしているなという印象。
 ただし逆に言えばラノベとしても一般書籍としても中途半端になりかねない危険さはあるかもしれないな、ということを思ったのも事実。

 そこそこ不幸な境遇のために、早く社会で自分が生きて行くための力――「実弾」が欲しいと望む少女が主人公のこの物語は、彼女とは対照的に「砂糖菓子で出来た弾丸」を無差別に周囲に乱射しているような美少女との出会いから始まります。
 この「実弾」と「砂糖菓子の弾丸」という喩えのセンスが、とにかくこの作品の最大のポイントかなという気がします。
 とはいえ、あまりにも鋭い感性を思わせるこの喩えとは裏腹に、実際にその「砂糖菓子の弾丸」を示す少女のエキセントリックさは、いささか平面的でそこに人間が書かれているようには思えず、前半は今ひとつではありました。ですが、徐々に明かされていくこの少女のエキセントリックさの裏側にある救いのない現実と、その現実から逃避するための少女の「弾丸」の全てが明らかになってくると、一気に物語の世界の比重が変わってしまう凄さがありますね。

 冒頭で物語の悲劇的な結末は明かされているので、読者はこの物語がバッドエンディングに向かって突き進んでいくのを予め了承しながら読んでいるわけですが、だからこそ感じさせられる切なさややりきれなさというものを、最大限に引き出した物語だということは言えるでしょう。
 この作品がある種の喪失の物語であるということで、決して読後感の良いだけの物語ではありませんが、一人の少女の終焉と一人の少年の世界の崩壊というエンディングの中で、大人でも子どもでもないまま生き残っていく主人公の姿が強い印象を残す1冊でした。