[読了] 浅暮三文 『実験小説ぬ』

実験小説 ぬ

 元々ショートショートなどの、純然たる短編集というのは実は苦手です。
 何かの待ち時間に気軽に読めるというのは良いのですが、短い時間で小説に入り込む間もなく現実にいちいち引き戻される煩雑さのようなものがあって、数ページをめくって別の作品になって、もう一度新たに集中するというのが私の場合難しいようです。

 本書『実験小説ぬ』は、そういった意味では完全に苦手な範疇に入るのですが、「実験短編集」の部ではナルホド、小説と言う表現媒体でこんなことも可能なのかという面白さや凝った趣向を楽しめますし、「異色掌編集」の部では最近あまり見ることが無くなった良質のショートショートを楽しめます。
 色々な意味で斬新な取り組みは評価出来るでしょうし、既成の型に囚われない小説スタイルはこの著者の大きな長所だとも思います。

 ただ個人的には、1冊の本として手に取った時にやはり「小説」を楽しむという観点では些かの辛さも感じたと言うのが正直なところ。
 表現はあまり良くないですが、「小説家」が、作品を作り上げる前段階で、試行錯誤を凝らして書き溜めた習作集的な印象のようなものも感じました。
 それでも、ひとつひとつのアイデアというのは非常に質の高い独創性があるように思えますし、逆にこの中の1作1作を下敷きにした中篇にでもなれば、物凄く面白そうだなという気がします。