SFの枠組みを借りた青春小説という風合いと、今時の成熟さ加減がアンバランスな若者の自分語りがある種の居心地の良さを感じさせるライトノベルの風合いが入り混じった物語だなという印象。基本的にはSF色よりは青春小説としての色彩の強い作品ですね。
主人公達が作中で語るタイムトラベル関連の小説の分類など、普遍性すらあって面白かった反面、「ヘーボタン」なんて、十年後の読者は何のことだか分からないかもしれないな、などと、些か余計なことを考えながら読んでいました。
僅かな時間ではあるけれど、自分の時間を突然未来へと進める能力を身に付けた少女を中心に、ひと夏の「プロジェクト」が立ち上げられます。その中で「資料」として並べられる既存のタイムトラベル関連の小説、そして少女が実際に能力をコントロールするための実験。
個人的にこの「資料」の中であげられていた「ジェニィの肖像」は、昔TVでやっていた映画で見て子供心に鮮烈な印象のあった作品でしたので、非常に懐かしかったです。
ただし、全体的に読む人を選ぶ小説であるのは確かではないでしょうか。
登場人物の少年少女のほとんどは、IQも高く斜に構えたものの見方をするのですが、彼らの語り口調や思考が鼻につく面は少なからずあります。
おそらく随所で交わされる、本筋とは直接関わらない会話文を楽しめるかどうかでも評価は変わってくるのかもしれません。
物語が飛び飛びでつぎはぎな印象もあり、リーダビリティの点では残念ながら今ひとつ。
それでもひと夏の「プロジェクト」という祭りのような日々と、その喪失感の予感、そして喪失から来るノスタルジーは見事。真っ直ぐに未来へ進む少女と、いつか彼女と出会う時のために真っ直ぐにそれぞれの未来へ進んでいく仲間の旅立ちという色彩の強いラストは読後感も良かったです。