[読了]エリス・ピーターズ『修道士カドフェル18 デーン人の夏』

デーン人の夏

 2ヶ月に1冊の刊行を続けてきたカドフェル・シリーズも残すところあと2冊となりました。
 今回はカドフェルのホーム・グラウンドとでも言うべきウェールズが舞台で、名君であるグウィネズの領主オエイン・グウィネズとその不肖の弟の間の諍いが発端となっています。

 司教の使いとしてウェールズに赴くことになったのは、かつてカドフェルのもとで見習い修道士を務めていたマークです。通訳を兼ねて彼に同行することになったカドフェルですが、オエインに領地を取り上げられた弟はよりにもよってデーン人のヴァイキングを雇って「領地を返してくれ」と兄のオエインに迫って来ます。
 デーン人との戦い、グィネズ兄弟間の問題、教会の聖堂参事会員の父娘の間の問題、そしてウェールズ人と教会との間の問題に加え、領主の一行と弟の派遣した死者との間での緊張状態の中で起こった殺人など、非常に本書は盛り沢山な内容となっています。
 殺人事件に関してはいつの間にか忘れ去られたようになって、材料の提示の仕方や解決も少々なし崩し的な色合いはあったものの、様々な人間模様と言うことでは十分な1冊でした。ウェールズ人とイングランド人に加えてデーン人までもが介入したストーリー展開は起伏に富んでいますが、今回はカドフェルがただその場に立ち会うだけといった風情なのが不満と言えば不満な点かもしれません。ただその分も、シリーズを通して読んでいる人間にとっては、立派に成長したマークの活躍で補って余りあるものとなっていると言えるでしょう。