[読了] 三津田信三 『厭魅の如き憑くもの』

厭魅の如き憑くもの
 本作でもすぐ後ろに潜むような禍々しい何かの息づかいや、それが迫ってくる生々しさを感じさせる文章は健在です。憑き物信仰、生霊、神隠しなどのホラーとミステリの融合という面では、これまでと比べればホラー部分の比重は低いと言えるでしょうが、バランスとしては決して悪くは無いのではないでしょうか。民族学的なアプローチの確かさ、横溝正史の描くような因習にとらわれた村の書き込みなどは、丁寧で過不足ありません。
 また、事件を解き明かす後半の部分も、何度かひっくり返されては軌道修正される推理の面白さ、丁寧な仕掛けといった面で十分に楽しめます。
 ただ、これまでの作品で感じられた、現実と虚構の境目が曖昧になるような独特の持ち味は薄く、良くも悪くも「普通の良作」に落ち着いている感もあり、今までの作品をずっと読んでいると少々物足りない気もしてしまいました。