[読了]霧舎巧 『名探偵はもういない』

名探偵はもういない
 扱っているのは雪で閉ざされた山荘という、実にオーソドックスなクローズド・サークルもの。いわくありげな泊り客、いびつな人間関係と、いささかリアリティに欠けるほどにコテコテの本格なのですが、小さなトリックを上手く組み合わせた佳作であるという評価は出来ても、どうにも書き方が薄っぺらな印象ばかりが残ると言う点でマイナス要素のほうが残ってしまう点を指摘せざるを得ません。
 それというのも多分、犯罪学者を名乗る木岬というキャラクターが、先へ進むに連れて薄っぺらなものになっていくという点、名探偵として登場させたとある人物が、どうにも扱い切れていなかったという点(もっともこれは、最期の結末を思えばやむを得ないことという解釈もできるのでしょうが)、それから何よりも、中途半端にしか描いていない純愛めいたものを最後の最後まで大きく扱ったということで、今ひとつという印象が残ってしまったのではないでしょうか。
 読み易いし次々に提示される謎を推理していく過程も楽しめましたし、「読者への挑戦状」も効果的ではあっただけに、ちょっと不発弾に当たったような読後感。