キャサリン・コールター 『袋小路』

袋小路
 本作ではロマンス小説と言うよりも、前作以上にサスペンス要素が強く、またしっかりしていて普通に面白かった1冊。
 冒頭から、双子の連続殺人犯「魔法使い」とのサヴィッチの対決、そして不可思議な怪現象を起こす"グール"という存在の謎に惹き込まれます。ですがおそらく現実の犯罪捜査がそうであるように、本作でも幾つかの事件が並行して起こり、FBI捜査官サヴィッチを悩ませるという、本書は何とも贅沢な内容となっています。
 特に一貫して中心となるのは、サヴィッチの妹であるリリーに襲い掛かった事件です。
 7ヶ月前に愛娘を不幸な事故で失ったリリーは、車でアカスギに突っ込んで大怪我をするのですが、その事故のことをショックで忘れている彼女には、あろうことか自殺の疑いがかけられてしまいます。
 精神的に不安定な状態であると決め付けられるリリーですが、駆けつけたサヴィッチと義姉のシャーロックも、執拗に精神科医に掛かることを強要する夫とその家族に不審を覚えます。
 幾つかの事件が並行しておこっているために、次々に緊迫した展開が現れ、結末まで一気に読ませられてしまう作品です。また、複数の事件が交互に現れるにも関わらず、その展開と配置が絶妙で、煩雑な印象はほとんど受けることもありませんでした。
 冒頭からの謎の面白さ、そして思わぬ展開を見せ続ける事件に最期まで楽しめた1冊でした。
 敢えて難を挙げるとすれば"グール"の正体の説明が今ひとつ甘かったという点はあるかもしれませんが、全体のバランスの良さやストーリーテリングの上手さもあって、欠点と言うほどのものには思えませんでした。
 海外翻訳物の宿命で、やや変則的な順番で訳されているシリーズですが、2作読んだ限りでは、他作品も期待の持てる作家では無いでしょうか。