京都人の間では「どうぞぶぶ漬けでも食べて行っておくれやす」というのは、婉曲に帰りを促す技なのだそうですが、通り一遍の京都解説よりもさらにディープな部分を民俗学的に掘り下げた話・・・ではありません。
むしろ京都のマイナー(裏)な部分をガイドしつつ謎が解き明かされるコージーミステリでしょうか。
そして北森作品では出てくる食べ物がとにかく美味しそうに描かれていることはこれまでにもありましたが、本作でもKon's Barのカズさんの作るカクテル、寿司割烹・十兵衛の大将の作る料理の数々が、何とも読んでいるだけでお腹がすいてくるような逸品ばかりです。
難を上げるとすれば、前作『支那そば館の謎』に比べると、『興ざめた馬を見よ』以外では主人公の有馬次郎の来歴が生かされる部分が小さかったかなというところ。シリーズとしては少々中だるみの感も否めませんが、ユーモラスなキャラクターの確立という点では十分に楽しめる1冊でした。