小路幸也 『東京バンドワゴン』

東京バンドワゴン

 東京の下町で4世代の家族によって営まれる老舗の古本屋、"東京バンドワゴン"で繰り広げられる物語。
 内容は4編の短編集であり、一編一編がかなり密度の濃い作品として存在しつつ、上手い具合に張られた伏線が生かされている連作短編集という形式をとっています。
 一言で言ってしまえば日常の謎+ホームドラマなのですが、何とも著者らしい味があって、ホッとできるような人間関係がそこにはあります。
 4世代の大家族に加えて、彼らを取り巻く人々も出てきているのですから、登場人物の数は結構な数になっています。ですが絶妙の加減で作りこまれた登場人物たちの個性と掛け合いのお陰で、驚くほどすんなりと最初の一編から一人一人の個性が自然に伝わってきます。
 家族の中には腹違いの姉弟やわけありのシングル・マザーもいるのですが、嘘臭いほどにドロドロとしたところが無く、ステレオタイプの綺麗事・ハリボテの作り物と、本当に紙一重のところで一線を画した良質の物語を形作っています。

 何とも居心地の良い"東京バンドワゴン"の空気は、読み終えてこの世界から現実に戻るのが惜しく感じるようなものでした。