借り物:3冊

リンダ・ハワード 『くちづけは眠りの中で』

くちづけは眠りの中で
 スパイ物ということで、これまで読んだリンダ・ハワード作品とは少し雰囲気が異なり、主人公は『ニキータ』(アサシン)のヒロインのような張り詰めた雰囲気を持っています。CIAの契約エージェントの主人公は、親友夫妻と彼女の養女を殺害した犯罪組織のボスを毒殺します。CIAにとっても貴重な情報ルートであった人物を殺すことで、犯罪組織とCIA双方に追われることになりますが…と、ストーリーも割としっかりとしているのですが、最後は「あれ?」と思うほどの力技。
 ですが、殺された親友夫妻を雇っていた謎の人物の正体と、その動機にも説得力はありますし、タイトルになっている"Kiss Me While I Sleep"の使い方も上手いなと思います。

ジェイン・アン・クレンツ 『曇り時々ラテ』

曇り時々ラテ
 ジェイン・アン・クレンツというのは、個性的な男性ヒーローを描くロマンス作家だそうですが、確かに。言ってみればアメリカ版のアキバ系ヒーローなんでしょうか。
 二度も結婚相手に逃げられたコンピュータおたくの男性との恋愛に、そして機密の入ったコンピュータ盗難未遂、果ては殺人まで発展する事件が絡み、独特の癖のある物語はテンポ良く進みます。
 個性豊か過ぎるヒロインの親戚家族の存在感など、脇役にいたるまでキッチリと描かれていると言えるでしょう。
 ただし、盗難未遂から殺人まで、犯人に関しては実行可能性の問題から、もっと早く絞り込めそうな気がします。

ジェイン・アン・クレンツ 『ささやく水』

ささやく水
 「水の道」という禅とも宗教哲学ともつかない思想のもとに、自分を律するこれまた個性的過ぎる男がお相手の「ロマンチック・サスペンス」。
 宇宙船が迎えに来ると信じて過ごす怪しげな新興宗教のセレモニーの最中に殺人が起こり、色々なことが分かるにつれて幾人もの人間がこの事件に動機を持っていることが判明します。
 桟橋周辺の昔ながらの雑多な商店の人間達と、イメージ・アップのためにこの地域を刷新したいと考える人々との思惑がぶつかり合う中で、さらにそれぞれの過去の心の傷が――と、些か要素の詰め込み過ぎな感もあります。ただ、その辺りはさすがに読み易く処理されていますし、殺人事件の犯人が明らかになる過程にも無理はありません。
 ロマンス要素は正直良く分かりませんが、妙な哲学に凝り固まって、何かと言うと禅問答染みた物言いばかりする男ってどうなんでしょう。