エミール・ジェンキンス 『アンティーク鑑定士は見やぶる』

アンティーク鑑定士は見やぶる
 売れっ子のアンティーク鑑定士の主人公が、不審な点のある死を遂げた老女の遺品の中から、あまりにも彼女の人生に見合わない高価な銀食器を発見したことから物語りは始まります。
 その銀食器をオークションに出品するためにニューヨークニューヨークへ向かった主人公は、アール・ヌーボーアール・デコの像のパーツとそのオリジナルの鋳型を持つ老人からの相談を受けるのですが、骨董や美術品への確かな目は持っていてもその金銭的な価値に疎い彼が、本来得るべき報酬を得られていないばかりか、不当に利益を搾取している存在を知ることになります。

 全体を通して、些か細切れにしすぎた感のあるほどに、場面転換ごとにキッチリ節を区切ってあるのですが、その冒頭にそれぞれ以降の内容で登場するアンティークの豆知識のようなQ&Aを置いているのは、読者にとってすんなり主人公の視点を共有するためには有効な手段となっていると言えるでしょう。
 ただし、特に結末へ向けて、主人公が事件の真相や繋がりに思い至る過程の積み重ねの描き方が少々浅い上にエピソードを詰め込み過ぎたためか、どうもストーリーの軸となる肝心の部分がぼやけて分かり難くなってしまった感があります。そのために、複数の無関係な出来事が綺麗に一つの結末に向かって収束していくという部分では、必ずしも成功はしていないと言わざるを得ないでしょう。
 デビュー作ということで力が入り過ぎてしまった印象ですが、今後のシリーズとしては面白くなる要素もあるかもしれません。