綴じ込みで屋敷の見取り図まで付いているから、いわゆるオーソドックスな館ものかと思ったらそうとも言えず、むしろ昔懐かしの冒険活劇的「探偵小説」の風合いが強い1冊。
コンピュータの中の仮想世界だとか、莫大な富を生む可能性のある知的遺産の収められたディスクだとかが出てくる割には、理系ミステリ的な要素も殆どありません。そうした点では、誰もが知っていた「探偵小説」の原体験を思い出させるというテイストをあくまで主軸に置くという狙い上、現代性との融合は上手く行っていると言えるでしょう。良い意味で探偵小説の原点回帰を意識しつつ、時流を意識して古臭さを感じさせない良作に仕上がったと評価することは出来ます。
また、一応のミスディレクションはされているものの、犯人が誰なのかというフーダニットに関しては、かなり早い段階で読めてしまう怖れもありますが、焦点を単なるフーダニットそのものではなく、隠れた人間関係による動機に絡めたところに、本作の成功の一因を指摘することができるかもしれません。
さらにトリック面でも、水屋の密室的なトリックなどは綺麗に決まっており、本格ミステリ作品の面目躍如といったところ。
ただ如何せん、人物の書き込みが浅いためなのか、結構な人数が死んでいるのにも関わらず、そのひとつひとつの死に対して何ら重みを感じられないところが少々残念な気もします。
著者の言う「物語性」という点に関して言えば、結果的にはもうひとつ掲げられた「探偵小説の復権」の部分に負けてしまい、今ひとつインパクトに薄いという印象が拭えません。ふんだんに盛り込まれた小技は効いているものの、それがトータルされた時に薄れてしまった印象が残ります。