『カムフラージュ』
5年前に別れてから一度も会っていない夫が、事故に巻き込まれて重態だとFBIから知らされた主人公は、動くことも喋ることも出来ず、全身包帯で巻かれた変わり果てた男と対面する事になります。事故当時、彼ともうひとり、政府機関のエージェントがその場にいたことは確認できたものの、患者がその状態では本人確認が出来ないということで連れて来られた主人公ですが、確信がもてないままに生死の境をさまよう男を看病し続けますが――。
と、ネタバレの配慮を必要としないまでに、入れ替わりは当初から明らかだったりします。
ですが回復を見せたものの記憶を失っている男に対して、主人公はある時点から彼が元夫とは別人であると確信しつつも揺れ動く心理描写は非常に丁寧。
『バラのざわめき』
また凄いタイトルだなと思わず原題を確認してしまいますが、こちらは"All that Glitters"と、まぁ何となく分かるような原題となっております。
強引で頑固な男と、マスコミによって悪女のイメージを植え付けられている主人公が、互いのプライドによって誤解し合い、惹かれ合いながらも行き違いからこじれるという、そのまま昼メロになりそうな、ある意味正統派のハーレクイン・ロマンス。
いやでもこんなに独善的な男でいいんだろうか?と思わないでもないですが、まぁロマンス小説ということで。
ラストだけは、何だか慌ててハッピーエンドにしたようで、些か最後の処理の丁寧さに欠ける印象。
『美しい悲劇』
ここに至ってはタイトルはまったくどこから持って来たのか意味不明な上、内容も別に悲劇でも何でもないんじゃないかと思いますが、何故か『美しい惨劇』と眼の錯覚で最初に読み間違えております。そんな話じゃないです。
原書の方は1983年刊行ということで、レーガノミックスでアメリカにおいては産業転換が図られていた時代です。アメリカという国は何気に農業重視ですので、牛や馬の牧場経営が多いですから南部の大牧場というのもロマンス小説の舞台なんでしょう。当時はBSEとか無かったでしょうけど、牧場長のヒーローが牛牧場をやめて馬牧場に切り替えたのは良い判断だと思います――なんてことを考えながら読む小説じゃないのだけは確かです。
とりあえず女の口説き方は微妙でした。
『炎のコスタリカ』
国家機密に関わってしまったかもしれない富豪の娘が中米コスタリカで誘拐されてしまい、父親の依頼を受けた引退した諜報部員が彼女を救い、ジャングルの中で逃避行するだけの話。それだけの話を起伏に富んだ展開で読ませる技量は、やはりベストセラー作家のストーリーテリングの上手さによるものかもしれません。
ただ、物語の重心がロマンスにあるとはいえ、物語の出発点であるはずの誘拐事件やらその背後関係やらがあまりにも語られないままに終わってしまった辺りに、些かのバランスの悪さを指摘せざるを得ないでしょう。
同様に、元諜報部員の「有力な知り合い」が後半にここぞとご都合主義の如く様々なことを手配してくれてしまう辺りも、ヒーローに据えた人物のバックボーンの書き込みの甘さを指摘する材料になってしまうかもしれません。