サリー・ビッセル 『人狩りの森』

人狩りの森

 チェロキーの血を引く女検事補のメアリーは、友人二人を伴い12年ぶりに故郷に戻り、大自然でのキャンプを楽しみます。かつてこの故郷で母親を殺された過去に向き合い、チェロキーの教えが息づく自然の中での休暇を楽しみますが、森に住む妄想に取り憑かれた異常者が彼女らを襲います。
 その上、メアリーが手掛けている事件の被告の兄が、彼女を付け狙い…。
 前半、三人の女性達が彼女らを付け狙う異常者に襲われるまでが些か冗長で煩雑な印象があります。それというのはおそらく、主人公のメアリーが主な視点の三人の女性のパートと、森に住む異常者ヘンリー・ブランクのパート、メアリーを殺すために綿密な計画を立てて追って来た被告の兄のミッチのパート、それからメアリーのかつての恋人のジョナサンのパートの4つが入り乱れ、さらにジョナサンやメアリーの幼馴染のビリーなどの視点も一部入ることで、どうしても物語が一本化するまでが長いという印象があるのかもしれません。
 後半はぬるめのサバイバルとサイコ・ホラー色は強いですが、取り立ててサプライズのある結末でもなくほぼ予想通りに纏まっています。極限状況でもくじけずに活路を見い出す主人公とは対照的に癇癪を起こしす友人、彼女らに迫る二人の凶悪な人物など、人物的な書き込みは非常に克明に為されていると評価出来ます。特に敵として描かれるヘンリーとミッチは、妄想に取り付かれてまさに自然の中の怪物と化したヘンリーと、都会で生まれ育って自我の肥大した独善的な知能犯として描かれるミッチの対比は効果的でしょう。また、メアリーの母親の事件の真相の謎など、次作以降に敢えて持ち越したのはシリーズとしては成功と言えるかもしれません。