山田正紀 『カオスコープ』

カオスコープ

 記憶障害を患っており自分が父親を殺したのかどうかが分からない鳴瀬君雄と、「万華鏡殺人事件」の捜査をしているうちに刑事の鈴木惇一の視点が交互に描かれるのですが、中盤を超えても物語の全貌ははっきりと見えてきません。
 というのも、記憶の歪みを持つ主人公の視点の不安定さゆえに、読者もまた鳴瀬と同様に何がなんだか分からない混乱を味わうことになります。
 また、「いつもいない相棒」に何でも相談そする奇妙な刑事の鈴木の視点で語られるパートも、鳴瀬のパートと重ね合わせると微妙な違和感を読者が抱くように構成されており、物語はかなり複雑な構造を呈していると言えるでしょう。その意味で、本当に最後の最後まで物語が一本になって全貌が見えて来ないというつらさはかなりありました。
 また、創元クライム・クラブのレーベルだからとミステリを読む気構えで読み始めたのも、このつらさの要因のひとつであったかもしれません。。
 万華鏡殺人事件、そして鳴瀬が父親を殺したのかどうかという謎そのものは、本書におけるメインの柱ではなく、むしろ記憶の歪みというものをクローズアップした広義のミステリとして、本作を捉えるべきでしょう。その意味では試みもそれなりに成功していますし、純粋なミステリというよりは、ミステリでありながらもSFでもある、著者ならではの大きな仕掛けの幻惑小説としては、難解な部分も多いものの非常にクオリティの高い1冊でした。