ポール・アルテ 『赤髯王の呪い』

赤髯王の呪い
 日本ではこれがツイスト博士のシリーズの4冊目に当たり、表題作の『赤髯王の呪い』の他、短編3編を収録。
 主人公の青年エチエンヌが14歳の時、故郷のアルザスで兄たちとともに出会ったエヴァミュラーという妖精の如く美しいドイツ人の少女が殺されます。父親達から聞かされた「赤髯王」の呪いによるものだと思われたこの事件から16年が過ぎたというのに、エチエンヌのもとにはエヴァの幽霊を見たと言う、兄からの手紙が届き、ロンドンのエチエンヌもまたエヴァの幽霊を目にすることに――という、何とも「フランスのカー」と称される著者らしい怪奇趣味に溢れた作品となっています。
 物語は、手紙を貰ったエチエンヌのロンドンでの体験、そしてツイスト博士と出会い語られる16年前の事件、そして故郷のアルザスに戻ったエチエンヌの前で過去の事件が新たな波紋を広げながら収束へ向かう、という、非常に明解な構造をとっています。
 アルザス地方を舞台にすることで、激動の近代世界史を非常に上手く絡め、事件の必然性やその真相の合理性など、まさに上手い舞台立てに成功した1作と言えるでしょう。
 実は本作においてはツイスト博士の出番は決して多くありませんし、存在も本家カーのフェル博士などに比べても非常に地味なものであることは指摘出来ますが、物足りなさを感じさせられることはありませんでした。
 短編3編も含め、教科書的な古典ミステリの手本のような領域を出ない感はありますが、非常に安定したレベルで楽しめました。