パトリシア・コーンウェル 『検屍官』

検屍官
 女性を暴行して殺害する残忍な連続殺人事件が起こる中、リッチモンドの女性検屍局長のケイ・スカーペッタ自身を窮地に追い込む事態までもが起こります。検屍局のコンピュータに何者かが侵入した形跡が見つかり、さらには捜査情報がマスコミにリークされ、情報漏洩元として検屍局が疑われます。
 物語の主軸たる連続殺人事件の捜査と共に、スカーペッタを目の仇にして彼女を追い落とそうとする州の衛生局長との戦い、そして彼女のプライベートな人間関係などが絡み、物語は展開して行きます。
 些か途中、焦点がぼやけて中だるみを感じさせる部分もありますが、終盤での構成が良いために、最終的には必ずしもこの分量が無駄だとは言えない上手さがあります。
 特に科学捜査やコンピュータに関する記述は、著者がその世界を経験しているだけに、非常にリアリティに満ちており、終盤の盛り上がりを支える重要な要素として評価されるに足るものでしょう。
 単純に連続殺人事件だけのフーダニットの面白さを期待すると、純粋なクローズド・サークルものなどに比べれば少々物足りない感じはしますが、科学捜査に基づいた良質のサスペンスということでは文句なしに楽しめた1冊でした。