ジェイニー・ボライソー 『容疑者達の事情』

容疑者たちの事情
 夫に先立たれた傷をまだ癒せずにいるローズは、最近コーンウォールに来た女性の家で開かれるパーティに誘われます。ですが、そのパーティの最中に、彼女を招いた女主人が不審な死を遂げ――。
 このところ被害者との間が必ずしも上手く行っていなかった夫、借金を抱える息子、その息子の婚約者、被害者とその夫が別れることを望んでいた夫の愛人、根拠もなく被害者と自分の夫の仲を疑う女など、それぞれの事情を抱えた容疑者たちの姿が本作では徐々に浮き彫りにされます。
 本作をひと言で言えば、退屈な、けれども風光明媚で、住民達はあっという間に噂話を広めてしまう、そんなコーンウォールという土地とそこに住む人間を描いた、いかにもイギリス的な軽めのミステリです。
 それゆえに、推理という要素そのものはさほど重きを置かれていないような辺りは少し引っかかりました。最後に犯人と主人公との対決になるわけですが、そこへ至るまでの過程は今ひとつ不明瞭であり、犯人の行動原理も「不安定な精神状態」というひと言で片付けられてしまっている部分は、本作におけるミステリ部分の弱さであると指摘せざるを得ないでしょう。

 ただ、いかにも英国ミステリらしい雰囲気で、それぞれいわくのある登場人物を描き出した部分はそれだけでも十分に楽しめました。