小森健太朗 『グルジェフの残影』

グルジェフの残影
 本格ミステリマスターズでは『Gの残影』として刊行された作品の文庫版。
 グルジェフもウペンスキーも、名前はどこかで見たけれどもどんな思想家であったのかすら覚えていなかった私には、歴史ミステリというよりは単なる歴史小説という感もありましたが、グルジェフとウペンスキーにまつわる歴史上の謎を解き明かしたというのが、どうやら本書の中心らしいです。とはいえ、この二人の実在の神秘学思想家に関して何ら予備知識を持たない私のような読者には、いったいどこに歴史上の謎があったのかも分からなかったというのが正直なところ。
 帝政ロシアからソヴィエトへと移行していく歴史の混乱期に、二人の思想家の出会いから決別までを見届けた、一人の青年の視点で描かれた歴史小説としては、予備知識が無くとも十分に楽しめます。ただ、その場合はむしろ、後半で付け足しのように起こる殺人事件の謎解きなどは蛇足であるかもしれません。