鳥飼否宇 『非在』

非在
 『中空』に続くシリーズ第二作。
 女性植物写真家の猫田夏海が偶然奄美大島で拾ったフロッピーディスクの中には、人魚伝説を調べる為にとある島へと出掛けた大学生たちの一人が書いた日記が打ち込まれています。
 警察に届け出られ、行方不明の大学生たちを海上保安庁で捜索し始めましたが、日記に記されていた島には彼らの痕跡すら見つかりませんでした。
 「もしキミに時間がとれるようだったら、行方不明の一行を探しに行ってみない?」と、大学生たちが消えた先を既に推理している様子の鳶山のメールを受けて現地へと向かいますが――。

 序盤での日記における、人魚や仙人、朱雀などの謎めいた記述に加え、思わぬハプニングで島に閉じ込められ、徐々に極限状態へと陥っていく様子など、物語の導入は実にスムーズです。
 また、文献から推測して人魚の目撃された島を、そして救援の為の捜索が行われても発見することの出来なかった学生たちの居場所を特定する推理の過程も十分に楽しめます。
 ですが、その島で起こったことの真相を究明する過程に関しては、やや想像力や証言にのみ頼った展開があることは指摘せざるを得ません。
 また、終盤で明らかになる「人魚の肉を食べた」に関連するくだりは、それまでの伏線が些か提示されすぎているために、サプライズの度合いを下げてしまっているかもしれません。
 エピローグがやや蛇足的な感じもありますし、細部では粗も無いわけではありませんが、全体としてはかなり好きな雰囲気でした。