道尾秀介 『シャドウ』

シャドウ
 癌で母親を亡くした凰介、大学病院で働く父の洋一郎、洋一郎の学生時代からの同僚でやはり大学病院に勤務する水城、その妻の恵、そして娘の亜紀。
 母が死んでから、恵の姿を見て何故か脳裏に絡み合う男女の姿が見えたり、恵が死ぬ夢を見たその日に実際に恵が自殺をしたり、凰介を取り囲む世界は徐々に歪みを見せて行きます。
 そして、水城と亜紀の父娘の間で問題が顕在化すると同時に、凰介は父の洋一郎の異変に気付きます。

 序盤から物語のどこかに歪みがあることは感じ取れるものの、その歪みの正体が何であるのかは、非常に上手いミスディレクションによって隠され、誰が誰にシャドウを投影しているのか、それがどんな意味を持つのかという主題が、結末で非常に生きてきています。
 何度も視点を変えることで多面的に物語りは語られているはずなのに、読者に対して登場人物たちは中々その真の姿を見せてくれません。
 最後の最後までひっくり返る真相、そして意図的に読者を錯誤させる手腕は非常にスマートな1作でした。
 とにかく上手いです。