浅暮三文 『ポケットは犯罪のために 武蔵野クライムストーリー』

ポケットは犯罪のために 武蔵野クライムストーリー
 中央線で置き引きを働いている男が、小説家の手書き原稿と思われるものを手に入れます。この原稿を小説家本人に売って儲けようと考えた男は、小説に描かれている場所などを頼りに作家を探そうとしますが――。

 6編の短編を作中作とし、合間合間にこれらを繋ぐ物語を挿入したことで、ひとつの作品としたもの。
 それぞれバラバラの短編を、置き引き犯の男がスリの男に見せて語る断章を挿入することで繋いでいる形式になるのですが、このメタの手法を用いることで普通の短編集が「化けている」1冊。
 著者独特の人を食ったような登場人物の造詣や語り口調なども良い味を出しています。
 印象としては、1冊全部を使って『実験小説 ぬ』のようなことをやったという感じも受けました。
 ある程度読者を選ぶ怖れはありますが、特に最後の最後の作り込みによって、非凡な作品に仕上がっていると言えるでしょう。