ローリー・キング 『公爵家の相続人―シャーロック・ホームズの愛弟子』

公爵家の相続人―シャーロック・ホームズの愛弟子
 『エルサレムへの道』で出会ったアリーとマフムードは、実はヒューエンフォート公爵家爵位後継者のアリステアとマーシュという名をイギリスにおいては有していました。マフムードことマーシュ卿を助けて欲しいと、アリーに頼まれたメアリとホームズは、パレスチナで出会った二人の変わりように驚きながらも、公爵家爵位継承に絡んだ過去の事件の真相を探り出すべく行動を開始します。

 シャーロック・ホームズ譚のパスティーシュとしては、非常に違和感無く読めるこのシリーズも既に6冊目ということで、シリーズの時間軸や人間関係が自然に掘り下げられていると言えるでしょう。
 第一次大戦の末期の戦場における混乱や理不尽によって死ぬことになった公爵家の若者の死を解き明かすことになっていく二人の捜査は、ホームズ自身の活躍の機会は本作では少なめですし、その意味では些か地味なものではあることは指摘できるでしょう。ですが、描かれる人間像が非常に上手い具合に掘り下げられていることと物語の運びが上手いために、過去の事件が生々しさをもって現在時制で語られることになります。
 公爵家に対する義務と責任に縛られたマシュー卿が、「マフムード」としての自分を取り戻すラストが非常に良い読後感を残してくれた1冊でした。