リンダ・ハワード 『夢のなかの騎士』

夢のなかの騎士
 考古学者のグレースは、自分の勤める財団の理事長とその手下らしき男が、夫と兄を殺す現場を目撃してしまいます。グレースの犯行と見て彼女を追う警察の他に、財団の手の者がグレースを亡き者にしようと追って来るのを、彼女は必死で防ぎつつ逃亡生活に身を落とすことになります。
 そうやら、グレースが解読を始めた古文書が全ての原因らしいのですが――。

 ロマンス小説として読むなら、これもタイムスリップ物に当たるのでしょうが、実際に主人公が時を越えて古文書に書かれている世界へと行くのは後半も差し迫ってからのこと。勿論そこに至るまでも、中世のスコットランドに生きる騎士のナイルとグレースの、意識だけの交信のようなものはありますが、メインはあくまでも追っ手とグレースとの駆け引きと、古文書と財団に隠された謎の方だと言えるでしょう。
 その意味では、「逃亡者」のような要素も大きく、サスペンス部分は非常に密度の濃い作品でした。むしろ、財団との決着のシーンではナイルの出番が無い方が完成度が高かったとすら言えるかも知れません。
 単なるタイムスリップ物のロマンス小説とは一風変わった作品で、史実と虚構の配分も上手く、また脇役の個性も良い、様々な要素を兼ね備えた娯楽性の高い作品でした。