クリスティ・ティレリー・フレンチ 『凍える瞳』

凍える瞳

 人里はなれた山奥の土地で動物たちと暮らしていたガースは、厩舎で血まみれの女性が倒れているのを発見します。彼女は警察からマークされている犯罪組織のボスの妻のケンドラであり、夫の暴力によって流産したばかりでした。元警官のガースは、ここならば安全だから体が回復するまで留まるようにケンドラを説得します。

 リーダビリティの面ではそこそこ読みやすいし、ボリューム的にもさほど多いわけではないのですが、如何せんケンドラがガースの元で心身ともに傷を癒す過程というのが些か冗長であり、本来ストーリーが持っているはずのサスペンス色が弱まってしまった印象があります。
 また、物語の中心であるガースやケンドラの視点以外にも、犯罪組織のボスでありケンドラの夫のトニーの視点、その右腕であると同時にケンドラを影から助けていたヴィンセントの視点などが、何度も入れ替わるために、全体的に散漫になっていることも指摘できるでしょう。
 さらに人物造詣においても、主役の二人の個性は良く言えば癖が無く読み手を選ばないものの、悪く言えば今ひとつインパクトに欠けていると言えるかもしれません。さらに悪役としてのトニーに関しても、彼の視点を描くことで個性を掘り下げるというよりはむしろ、中途半端な悪役にしてしまった面も感じられました。
 サスペンスの部分でもう少し迫る何かがあればなぁという印象。