軍の研究施設で人体改造を施され最強の兵器となった者達が、政府による廃棄処分を逃れるために自らの行く末を選択することを余儀なくされます。
3人の博士のうちの一人、クリストファーに従ったディムズデイル=ボイルドとウフコックを初めとする被験者たちは、マルドゥック・シティで新たに制定された「09法案」のもと、特殊な権限を持った部隊として自らの存続と有用性を賭けて戦いの中に身を置きます。
ギャングとの抗争、闇の軍属カトル・カールとの戦い、その奥に見え隠れするクリストファーの実家であるオクトーバー一族の思惑。
熾烈な戦いの中、09メンバーは次々に命を落とし、ボイルド自身も昏い虚無に身を落として行きます。
前作『マルドゥック・スクランブル』が傷付いた少女バロットの戦いと再生の物語であったのに対し、本作は『マルドゥック・スクランブル』では敵同士になってしまったウフコックとボイルドの絶望と失墜の物語です。
前作を知っている読者にとっては、無垢な武器であるウフコックとボイルドの決別は分かっていることですし、どう足掻いてもこの物語には明るい結末などないのだということも予め分かっていることです。
それだけに、1巻で09メンバーがそれぞれのパートナーと強く結び付き、互いに絶大なる信用を持って戦っている姿にさえ絶望を感じるという、何とも救いの無い物語でした。ひとり、ふたりと、むごいとしか言えない状況で彼らが命を落とし、ボイルドが虚無に包まれていく物語なので、前作で感じた軽妙な疾走感は皆無で、代わりに終始重苦しい失墜の予感だけが付き纏います。
その意味では本作単体でも骨太なSF作品としてはそれなりのクオリティは持つものの、娯楽性と言う面では些か厳しい面もあるでしょう。
さらには情報の羅列、ぶつ切りなど、シナリオ的な色合いを感じさせる独特の文体は、非常に映像的・感覚的なものである反面、状況を説明したり心情なり風景なりを喚起させるという「文章」の面では弱い部分も指摘出来ます。
こうした文体にしろ、そこから紡がれる物語にしろ、書き手が非常な精力を傾けてこの物語を創造したことを垣間見せるような、ある種のパワーは感じさせるものの、読み手に対して配慮する第三者的な視点は必ずしも十分ではないという指摘も可能かもしれません。
とはいえ、ある程度読者を選ぶということは言えますが、物語り本来が持つ力強さには満ちた作品でした。