J・D・ロブ 『春は裏切りの季節―イヴ&ローク 12』

春は裏切りの季節―イヴ&ローク〈12〉
 大女優のコレクションのオークションが開かれることになり、そのパーティの席に夫でありホテルの所有者でもあるロークとともに出席したイブは、偶然そのホテルで起こった客室係の殺人事件の捜査に駆り出されます。この殺害が名の知れたプロの殺し屋の犯行であることが分かり、さらに最終的な目的はロークにダメージを与えるこでである可能性を危惧するイブですが、捜査を進める中FBIが横槍を入れてきて――。

 割とタイトルがそのままネタバレになりそうな内容ですが、本作はこれまでのシリーズの中では、警察同士の縄張り争いや足の引っ張り合いが描かれるなど、最も警察小説的な色合いが強い作品と言えるかも知れません。
 シリーズも12作目となると犯罪者のタイプも決まってきてはいますが、それでも自らの美学によって殺しを請け負う犯人の姿は上手く描かれており、シリーズを通しての登場人物の描き方にも深みは出ています。特に本作では、これまでロークに気遣われて守られる側であったイブが、逆に彼を精神的に守ろうとするなど、キャラクターとしての成長も描かれていると言えるでしょう。
 少々緊迫感を感じる場面が今回は少ない気はしますが、色々な意味で、非常にバランスの取れた作品であることは確かでしょう。