パトリシア・コーンウェル 『遺留品』

遺留品
 2年以上前から同一犯の犯行と思われるカップル殺害が続いており、新たな被害者の一人は次期副大統領候補とも言われる女性政治家の娘でした。
 どうやらFBIが事件に介入し、検屍局長のケイにすら情報を隠そうとする動きが見え隠れし、友人でもあるベントン・ウェズリーや、微妙な関係のままの元恋人のマークに対しても不信感が募ります。さらに、かつての事件で友情を結んだ新聞記者のアビーまでもが「自分はFBIに監視されている」と言って怯えて見せながらも不審な行動を取る中、女性政治家が強硬な手段で情報開示を迫ってきます。

 検屍官のシリーズ3作目である本作では、シリーズを通しての人間関係の変化や人物造詣の深みが出ており、その意味でも読み応えのある作品となっています。また、何かを隠そうとしているFBIへの疑念が、ケイとともに読者のそれも、中盤へ向けて徐々に強まっていく物語構成も非常に面白いところ。
 事件を扱っているスパンは非常に長い上、分量的にも決して少なくは無いのですが、読んでいて冗長であるという印象はほとんど受けませんでした。
 また、人間関係に重点を置いて描かれている本作ですが、結末部分においてDNA鑑定を絡めたどんでん返しなど、著者ならではの持ち味を楽しむことも出来ました。ラストの急展開もあり、最後まで見せ場の続く1冊。