それまで大した犯罪も起こったことが無い田舎町で、エミリーという十一歳の少女の死体が発見され、その犯行の特徴から容疑者として、連続殺人犯のテンプル・ゴールトが浮かんで来ます。ですが、町の警察官が異常な状況で殺害され、その警察官の家から思わぬものが発見されたことで、捜査は混迷し始めます。ベントン・ウェズリーに引き込まれてFBIの仕事を手助けするようになるケイですが、あるシステムの開発に関わっていたケイの姪であるルーシーが不正に関わっている疑惑が浮上したり、急速に接近するウェズリーとケイに疎外感を抱くマリーノとの不協和音、さらにはウェズリーとの関係そのものについての悩みなどがケイを苛みます。
シリーズ5作目となる本作では、特にマークを喪ったケイとウェズリー、そしてマリーノとの間の均衡が崩れたことによる人間関係の変化、そして成長したルーシーを追い詰める状況など、リッチモンドの女性検屍局長ではなく、ケイ・スカーペッタという一人の女性の非常にプライベートな側面に光を当てた作品となっていると言うことが出来るでしょう。
ただこれまでと同様に、事件に関わっていない期間の登場人物らの関係や心情の動きというものは描かれていないために、一作一作の間に大きなブランクがあって、その間に彼らの間にあったことをリアルタイムで追ってはいない読者にとっては、こうした関係の深まりなり変化というものが、些か唐突に思える印象は拭えないでしょう。
ところで、本作のタイトルとなっている『死体農場』ですが、様々な状況に置いた死体を観察・検証することにより、死亡推定時刻などに関する詳細なデータを得ることを目的とした実際にアメリカに存在する世界で唯一の施設です。2005年時点で第二の死体農場を設立する計画もあるそうです。ただ、本作の内容に照らしてみれば、『死体農場』がさほど事件の中では重要な位置を占めていない印象もあり、敢えてタイトルに持って来ていることには若干の違和感も感じます。