パーネル・ホール 『お人好しでもいい』

お人好しでもいい
 以前の事件で関わりを持つことになった殺人課の刑事部長のマコーリフが、冴えない落ちこぼれ探偵のスタンリー・ヘイスティングズに、自分の娘婿が何やら抱えている問題を探って欲しいと依頼を持ちかけてきます。最初は頑なに断るスタンリー・ヘイスティングズですが、話を聞いているうちに情にほだされ、結局無報酬でアトランティック・シティまで出掛けることになります。そして娘婿のハロルドを尾行するうちに、マコーリフの娘が何故か尾行されていることに気付いた彼は、例によっていつのまにか事件の深みにはまり込んでいきます。

 荒事は一切苦手で、お人好しで肝心な所で抜けている上に運まで悪い探偵のシリーズの3作目。
 情にほだされて奔走するうちに、知り合いもいない土地で殺人容疑までかけられてしまう主人公の要領の悪さが、相変わらずいい味を出していますが、やはりこのシリーズ、主人公の駄目っぷりと小人物さが味となっています。ですが、そんな彼が精一杯女性の前では格好をつけてみたりする辺りは、独特のおかしさ混じりの格好良さがありますし、登場する人物はどれも良い意味で癖があって、コミカルで憎めない人物造詣が実に上手く為されている軽妙な作風には好感が持てます。
 事件そのものは、構造は非常に分かりやすいものですし、極端な話をすれば、この主人公がいようがいるまいが解決してしまったという部分はあるでしょう。ただ、探偵の目的はあくまでも、依頼人たちのささやかな幸福を守ることであるのを思えば、彼は間違いなく名探偵だとも言えるのでしょう。