ジル・チャーチル 『地上より賭場に』

地上(ここ)より賭場に
 親友のシェリイの誘いで、ジェーンは最近付き合いの順調な刑事のメル・ヴァンダインと子供たち、そして飼い犬のウィラードとともに、コロラドにあるスキーリゾートでの休暇を楽しむことになります。そしてこのホテルのオーナーが実は、正当なロシア皇帝の末裔だという話が、系図学者の間で言われていることを知って驚きます。ですが、その主張を支持する人物がホテルの部屋で死んでいるのをジェーンはまたしても発見してしまい――。

 アメリカやオーストラリアのような移民の国では、自分のルーツを知るということがある種のルーツになり得るそうですが、本書でもそうした国民性の一端を窺い知ることが出来ます。そして、ネイティブ・アメリカンとの共存だとか、系図学者だとか、そうしたものが実に上手く事件と絡められていて、本作も、気軽に読めるけれどもしっかりとした土台を持った良作と評することが出来るでしょう。
 事件に関しては、かなり上手い具合に丁寧な伏線を張り巡らせており、フーダニット以上にハウダニットの面で読み応えのあるものになっていると言えます。
 また、シリーズを通しての人間関係の掘り下げなども、ジェーンとメル・ヴァンダインの交際だけではなく、母親として子供たちと向き合う姿もしっかり描かれ、また「女」であり「母親」であると同時に、深い洞察力を持って人間観察をするジェーンの姿というのが、実に生き生きと描かれています。