ジル・チャーチル 『豚たちの沈黙』

豚たちの沈黙
 長男のマイクが高校の卒業式を迎え、ジェーンはマイクのアルバイト先であるデリカテッセンの開店祝いにも、隣人で親友のシェリイとともに出掛けることになります。ですが、この店の開店に反対していたクレイマーのような弁護士が、倉庫の奥でハムの棚の下敷きになって死んでいるのが発見されてしまいます。

 毎回のタイトルは有名作品のパロディではあるのですが、今回は内容との繋がりが特に邦訳では苦しくなっています。原題は"SILENCE OF THE HAMS"、言わずと知れた『羊達の沈黙』の"SILENCE OF THE RAMS"のもじりですが、ハムの棚の下敷きになっていた死体を匂わせるところまでは、さすがに訳者も行き着かなかったということでしょう。
 事件そのものはあまり劇的な展開もありませんし、今回はジェーンがでしゃばるのを交際相手の刑事であるメル・ヴァンダインが見事にブロックしているのが功を奏しているのか、死体の第一発見者というわけでもありません。
 ですが、あくまでも主婦の日常感覚で描かれる中で、最後に明らかになる犯人の歪んだ精神の対比は見事ですし、忌憚無く物を言うジェーンの痛快さは十分でしたし、長期シリーズとしてはキャラクターも立っているので、十分に楽しめる内容でしょう。
 もっとも、メル・ヴァンダインとの交際も中々変化はありませんし、母親としての複雑な心境もそろそろマンネリ化してきたきらいはあるので、今後のシリーズとしてはいつまで、どのように展開していくのかが作者の腕の見せ所となるかもしれません。