J・D・ロブ 『イヴに捧げた殺人 イヴ&ローク14』

イヴに捧げた殺人
 年配の資産家がパーティの席上で毒殺され、犯人は8年以上前にイヴが刑務所に送り込んだジュリアナであることが判明します。父親に性的虐待を受けたトラウマによる障害があるとされ、ジュリアナは刑務所ではなく更生施設で刑期を終え、イヴに復讐するためにニューヨークでの犯行を行います。調べを進めるうちに、ジュリアナのターゲットが夫のロークではないかと危機感を抱くイヴですが、捜査の過程で自身のつらい幼少期のトラウマに立ち向かわねばならない局面をも迎えます。

 冷酷で頭の切れる女殺人者と、彼女を追うイヴとの緊迫感溢れる駆け引きはスピーディな展開で面白く、シリーズ14作の歴代の殺人者たちの中でも、本作のジュリアナの個性は際立っていると言えるでしょう。男というものを憎み軽蔑し、父親を破滅に追いやった後は資産家の夫を3人殺し、さらに出所後に犯行を重ねるジュリアナの歪んだ心理の書き込みは緻密であり、非常に魅力ある殺人者の造詣に成功しています。
 また、助手のピーボディが迷宮入りになっていた事件をイヴから任されて解決していったり、ピーボディの個性的な両親が登場したりすることに加え、被害者になった男の別れた妻の人物造詣なども含め、本作ではいくつものエピソードを同時進行させています。そしてそれらに、結婚やパートナーという要素を織り込むことで、主人公であるイヴとロークが結婚して1年を迎えるにあたっての二人の結びつきなどを、効果的に描き出した作品となっています。
 さらに、これまでも作品の中で少しずつ明らかにされてきたイヴのトラウマについても、非常にドラマティックかつ無理のない形で盛り込んでおり、リーダビリティも高く「読ませる」作品に仕上げている手腕は見事。
 現在邦訳されているだけでも14作であり、シリーズとしては中だるみしてもおかしくはないのですが、それでも毎回一定以上のクオリティを保ってそれなりの起伏をつけているのは評価に値するものでしょう。