紅玉いづき 『ミミズクと夜の王』

ミミズクと夜の王
 魔物の棲む森に、両手両足に鎖を繋がれ額に数字の焼印を押された少女が訪れます。この森の「夜の王」に出会った少女は、自分を食べてくれと魔物の王に懇願します。人間は醜いから嫌いだと夜の王に一蹴される、自らをミミズクと名付けた少女は、ただひたすら夜の王と共にいることを望みますが、人間の王は魔物討伐のためにこの森に聖騎士らを派遣し・・・。

 ミミズクの独特の喋り方には些かのライトノベル臭さを感じるものの、それ以外の部分ではむしろ童話的・寓話的な要素が強いファンタジー作品です。
 世界観や設定に関する説明的な部分は極力省かれ、そのことでごく自然に物語世界に読者は入り込めますし、ステレオタイプの剣と魔法や恋愛を描かない分、非常にシンプルかつストレートな「いい話」に仕上がっていると言えるでしょう。
 若干癖はあるものの、奴隷として悲惨な毎日を送っていたミミズクという少女のキャラクター造詣は、彼女が自分が不幸であるということを自覚しないだけに悲劇的なものであると同時に、無駄な複雑さを一切持たない純粋さが、ダイレクトにメッセージを伝える力強さを与えています。心に深い闇を抱えた夜の王と、このミミズクの邂逅からはじまる物語は、彼らだけの何者にも侵されない森の奥の世界から引き離されることで急激な変化を辿ります。
 文章的にはライトノベル独特の癖はあるものの、ファンタジーという御伽噺ならではの、優しく純粋な何かの心地良さを感じさせる作品でした。
 余談ですが、解説に有川浩を持ってくる辺り、本書の作風を考えると上手いなぁと思いました。