ジェイン・A・クレンツ 『愛は砂漠の水のように』

愛は砂漠の水のように
 近年「パワースポット」として、ニューエイジャーたちに人気の町に、トラストは新しくオープンさせるホテルのオーナーとして12年ぶりに舞い戻ります。そして12年前、義父に対して父親を謀殺したと詰りに来たトラストを忘れられずにいたアレクサは、この新しいホテルの美術コレクションの収集コンサルタントを密かにつとめたことで、前の雇い主に巻き込まれたスキャンダルによって途絶えたキャリアを復活させる足がかりを狙っていました。12年経った今でも父親が殺されたと信じるトラストだけではなくアレクサも、義父を守るために彼に協力して真相究明を図りますが、容疑者のひとりが不審死を遂げ、誰もがトラストの妄想だと思っていた事件が徐々に再び起こり始めます。

 どこか怪しげな宗教団体だの「渦巻く大地の力(ヴォルテックス)」やらが大きく関わってくる辺り、ロマンス小説界での風変わりな著者の作風も出ていますが、話の構成自体は普通にしっかりとしたもの。12年前の事件の関係者の不審死や、何かを知っていそうでいながら口を噤む人々へ降りかかる災厄は奇をてらうことなく綺麗に1本の線で結ばれ、やがて結末へと繋がります。
 ただ、犯人の動機に関しては今ひとつ書き込み不足で説得力に薄い感じもありましたし、決して伏線から犯人への手掛かりが浮かび上がり、読者に論理的な推理をさせる作品ではない辺りが少々物足りない感じもします。この犯人に繋がる伏線という部分がキッチリ描かれていれば、犯人の意外性という面でもそれなりになったのでは無いかという点、個人的には惜しいところ。とはいえ、様々な要素を取り入れながらも詰め込み過ぎという感じなく、綺麗に纏めた作品であると評価することは出来るでしょう。