福田栄一 『エンド・クレジットに最適な夏』

エンド・クレジットに最適な夏
 報酬を約束され、晴也は同じ大学に通う美羽をつけまわす不審者を捕まえるという依頼に着手します。ですがその調査の過程で、美羽の隣に住んでいるやはり同じ大学の女子大生の兄から、妹と連絡が取れずに困っていると相談を持ちかけられます。さらにはやはり調査の過程で容疑者の一人だった男に、彼を恐喝する女のことでも相談され、同時にいくつものトラブルに首を突っ込む羽目になります。そして単なるストーカーと思われた当初の事件は徐々に様相を変え、思いもよらなかったところから、危険な犯罪が見え隠れしてきます。

 脈絡の無い事件を次々に背負い込むことでとりとめなく拡散すると思われた物語は、非常に良く出来た形で綺麗にひとつの線を結んで収束へと向かっていきます。ある種出来すぎた偶然に頼った展開にも思える部分はありますが、物語におけるリアリティということであれば十分許容範囲かつ、思わぬ展開を見せる成り行きに、終始中だるみすることなく引き付けられた1冊でした。
 また、主人公の晴也のキャラクターが多弁過ぎないこともプラスに働いており、ハードボイルドチックな面白さや魅力に満ちた作品になっていると評価できます。
 また、いくつもの事件に次々と向き合わされ、それぞれの事件における登場人物の関係もひとつひとつでしっかり描かれていますが、それらが全て複合した際には煩雑さを感じることもありませんでした。
 エンターテインメント性もリーダビリティも高く、ほんの少しのほろ苦さを感じさせる青春物としても良く出来ている作品だと言えるでしょう。