一藍というホラー作家が、自らの「スラッシャー 廃園の殺人」という作品をモチーフに、巨額の資金を投じて造り上げた廃墟庭園に、ビデオ映画製作のロケハンのために俳優とスタッフらがやって来ます。廃園の主だった一藍は姿を消し、さらには入り込んだ学生が遺体となって発見されたというこの場所で、忍び寄る黒い影により、ひとり、またひとりとスタッフたちは犠牲者になっていきます。
良くも悪くも、著者のホラー・スプラッタのB級趣味が満載で、その「いかにも」な空気に満ちた作品。
一応ミステリとしての仕掛けはされていますし、そこに破綻は無く筋も通っていますが、如何せん全編に渡ってあまりにもベタなホラー映画のそのままの雰囲気であり、ある種映画のノベライズを読んでいるような薄味さが物足りなかった気はします。
著者の他作品(特に同名作家の三津田信三のシリーズ)にあるような、濃密な空気を感じさせるものであればまた違ったのでしょうが、殺人鬼という分かり易く目に見えるテーマを選んだがために、映像をなぞったかのような、非常に表層的な恐怖で終わってしまった印象があります。
ただ、『シェルター』とのつながりや、「迷宮草子」などのアイテムによって、これまで築いてきた著者の作品世界をまた新たに広げているという辺りでは、楽しめました。
また、この種のホラーの「いかにも」なB級の雰囲気が好きな向きには、著者と趣味を共有する意味でも楽しめるかもしれません。