新任の女性介護福祉士である真理江は、赴任した仕事先である育英センターにいる車椅子の青年、熊谷斗志八こと通称「熊ん蜂」に、初対面早々チクリと皮肉を言われてしまいます。そして、カラーコンタクトを常用し、奇抜なファッションでスポーツタイプの車椅子を操るこの青年が難事件を紐解くさまを、彼女は間近で見ることになります。
全7編からなるシリーズ短編集。
新任の介護福祉士の真理江という、まっさらなキャラクターの目を通して描かれる車椅子の名探偵「熊ん蜂」は、障害を持った人間として描かれることで独特の影と奥行きを持つことになります。同時に、名探偵としての個性という面で柄刀作品の他の探偵と比べると、非常にバランスの良いノーマルでオーソドックスなタイプの「癖のある名探偵」としての個性を持っていると言うことも出来るでしょう。
各作品のトリックの面から言っても、非常に真っ向勝負のミステリとして評価することが出来ますし、安定したアベレージのトリックとその論理的な解決は、読んでいて安心できるクオリティを備えています。
ただ悪く言えば、柄刀作品の特徴である奇想に富んだトリックとそのために構築される作品世界の精度の高さは見られず、良くも悪くも「普通の本格ミステリ」であるという読み方も出来るかもしれません。
個人的に本シリーズの名探偵である「熊ん蜂」は、その個性でシリーズを引っ張れるだけの資質はあるように思えますし、大掛かりなサプライズではないものの、敢えてオーソドックスで小さなトリックを用いたことも、作品の個性としては有りだという気はします。このシリーズも、今後の展開があるのならば楽しみにしたいところ。