久綱さざれ 『神話の島』

神話の島 (ミステリ・フロンティア 34)

 幼い頃、新興宗教に入信した両親と生き別れた涼は、両親の死後に妹がその島に残されていたことを知り、御乃呂島へと向かいます。信仰と伝承が残るこの島に到着した涼たちですが、帰りの船を出すことも、本土への連絡も出来なくなり、外界から隔絶された島に閉じ込められることとなります。マラリアの蔓延までもが心配される状況での殺人、島民たちとの対立が深刻になる中、島の過去とが複雑に絡み合って意外な結末へと繋がります。

 本作は、孤島でのクローズド・サークルものの形式は成しておりますが、いわゆるフーダニットを主眼とする本格ミステリかと言われれば、決してその色彩は濃いとは言えない作品でしょう。
 また、閉ざされた孤島、因習に満ちた閉鎖的な環境の中で発生するマラリアと言う要素は重要なものでありつつも、いわゆるパニックものと言うわけでもなく、全体として物語の主軸となる物が今ひとつ明確では無かった印象も受けます。
 個人的には、ヒルコ伝説などの神話を絡め、物語の神秘的なムードを作り上げることには成功している面もあるので、この要素をもっと前面に出して事件そのものと深く絡めても面白かった気がします。
 60年前の復員兵と「毒」、そして事件の裏にいた意外な人物、何か不可解な行動を取る主人公の妹など、魅力的な謎の要素が多いだけに、そのどれもが「これ」というインパクトを持ち得なかったのが残念。