老優・中村雅楽が歌舞伎の世界の周辺で起こる様々な出来事の謎を解き明かす、短編シリーズの第3集。
著者の生み出した雅楽という人物も、シリーズそのものも円熟しているからこその味わいのある1冊です。
雅楽という、何とも粋で人情味あふれる人物造詣は、単にそのまま直裁的に描かれるのではなく、物語を重ねることで掘り下げて描かれており、本シリーズの名探偵である彼のバックボーンにまで踏み込む手際に隙はありません。
それぞれの事件の根底にある人間模様に、謎を解いた雅楽が見せる笑顔や哀しみ、そしてそれを間近で見て、雅楽に傾倒しつつも、ニュートラルな視点を守り続ける著述者である竹野というキャラクターの語り口も、堂が入っておりスムーズに物語りに入ることの出来るものでした。