神林長平 『敵は海賊・正義の眼』

敵は海賊・正義の眼
 タイタンに降りたった実業家ヨーム・ツザキを名乗る伝説の海賊は、この星の原生生物メデューサスの保護活動のリーダーであるモーチャイに、決定的なダメージを与えます。そしてその後に起こる、八体の海賊の惨殺死体発見、海賊を始末する胸の犯行声明、そして姿なき犯人の正体を巡る一連の事件は、海賊課の存在意義をも揺るがせるものになります。

 海賊課の存在意義そのもの、そして「正義」そのものに対して仕掛けられたゲームを描いた1作。
 シリーズとしては7作目に当たりますが、前作刊行からは10年が過ぎているので、かつてはリアルタイムの読者であったものの、このところ神林作品から遠ざかっていた私のような読者には、その間のブランク解消の1冊としてはまずまずのもの。
 言葉遊びをしているかのように軽妙なテンポで展開されるストーリーは、10年経っても色褪せることなく、「言葉」がそのまま世界に作用する独特の世界観に裏打ちされたものだと言えるでしょう。
 ただ、長編作品として捉えるならば、少々食い足りなさも感じないわけではありません。もっとも、シリーズの短編・中編として読むのならば十分なクオリティだと言えるでしょう。