加納朋子 『ぐるぐる猿と歌う鳥』

ぐるぐる猿と歌う鳥 (ミステリーランド)
 目を離すと何しでかすか分からず、手の付けられない乱暴で腕白な子供だと周囲に思われていたシンは、父親の転勤で東京から九州の社宅へを引っ越します。そこで仲間になった子供たちの中に「パック」と呼ばれる子がいますが、パックは社宅の子供たちの間の重要な秘密に関わる子でした。

 ミステリーランドというレーベルに相応しい、子供の論理を見事に前面に出して描き切った作品ではありますが、これまでの加納朋子の、女流作家ならではという作風は控え目という印象。
 「大人が手を焼く子供」である主人公は、ある意味では良い意味で非常に子供らしい子供であると同時に、現代ではあまりお目に掛かることの出来ない、理想化された子供でもあるように思います。そして、子供には子供の論理なり子供の正義なりがあるということを如実に示す主人公の少年の視点は、おそらく子供が読めば共感しやすく、「かつて少年少女だった」読者が呼んでも受け容れ易いものであると言えるでしょう。
 ですがこれらは、単に子供の視点で終わるのではなく、パックという存在を大人社会とは切り離すことで逆に、子供が成長とともに大人社会との齟齬を解消し、少年時代にいずれは別れを告げるのだという予感までも描くことに成功している辺りは一読に値するもの。
 ただミステリとしては、大小いくつもある謎のどれがメインであるのかという部分で、焦点を絞りきれずに散漫になった感じも若干受けました。特に、おそらく読者に対して仕掛けられた、(以下ネタバレ反転)シンの幼年時代に経験した「あやちゃん」との過去の関係をめぐるミスリーディングが非常に巧妙であるだけに、この辺りを強調する展開をもっと織り込んでも面白かったかもしれません。
 ですがいずれにせよ、大小含めどの謎も、日常の謎の名手としての著者の力量を評価できる精度を持っているということと、非常に上手い物語の運びを見せているということは言えるでしょう。