西尾維新 『トリプルプレイ助悪郎』

トリプルプレイ助悪郎 (講談社ノベルス ニJ- 19)
 五年前に失踪した流行作家、髑髏畑百足の最後の作品を盗みに行くという予告状が、百足の長女である一葉のもとに届きます。そしてその予告上の末尾にあった署名には、かつて世間を騒がせた怪盗、一度盗みに入れば三人殺す"トリプルプレイ・スケアクロウ(三重殺案山子)"の名が記されていました。奇しくも5年前にスケアクロウを捕らえた探偵の海藤が日本探偵倶楽部(JDC)から派遣されて来ますが、髑髏畑百足の仕事場は失踪した百足自身の意志によって開かずの間とされており、「最後の作品」の所在も分からない中、事件は起こります。

 西尾維新による、清涼院流水のJDCシリーズの世界観だけを流用した、JDCトリビュート企画の第二弾。
 初期作品に比べれば、西尾維新ならではの言葉遊びもあまりない辺り、個人的に少々物足りなく思う部分もありましたが、読者への挑戦状の挿入や仕掛けられたトリックの面白さや、あまり類を見ないメタ的な要素の活用などの面では楽しめました。
 フーダニットの観点から言えばさほど難易度は高くないものの、物語の構造に凝っている辺りや、そこに上手くはめ込んだトリックは、それなりに評価し得る水準に思えます。ただ、フェアかアンフェアかという部分になれば、非常にギリギリのラインにあることは事実でしょうし、純粋にミステリとして読もうと思えば、展開や結末には必ずしも納得が行かない読者もいるでしょう。
 ただ、エンターテインメント性の高さや、ミスリーディングや仕掛けたトリックの巧妙さ、そして西尾維新のJDCトリビュート作品であるひとつの物語としては大きな破綻も無く、一定の評価には値する作品と言えるでしょう。個人的には前作に続いて、本家JDCよりも楽しめました。