霧舎巧 『新本格もどき』

新本格もどき―本格推理小説 (KAPPA NOVELS)
 記憶喪失患者の吉田さんは、彼とミステリに関しての議論を戦わせるカレーショップの店主の作るマッシュルーム・カレーを食べると、新本格ミステリの名探偵になりきってしまいます。成り行きで吉田さんの面倒を見ることになった看護師の上岡エリは、名探偵に変身する吉田さんとともに事件の解決にひと役買うこととなります。

 都築道夫の『名探偵もどき』に倣った形式の作品とのことですが、そちらは残念ながら未読。そんなわけで私にはむしろ、ポール・アンダースンの『ホーカ・シリーズ』を彷彿とさせられた作品。
 本書は、新本格の代表的な七人の作家の代表シリーズが「もどかれ」、七編からなる連作短編集となっています。その意味では本書は元ネタを知っていればより楽しめる、新本格の代表作のパロディであると同時に、各作品の構成要素をネタバレせずに上手いこと利用したオマージュとしても高い評価を与えたいところ。個人的には、些か変則的ながらも、山口雅也の『13人目の探偵士』をもどいた『13人目の看護師』のトリッキーさがかなり楽しめました。勿論全編、霧舎巧らしさに満ちたトリックを堪能出来るものとなっていて、元ネタを知らなくともそれなりに楽しめるものに仕上がっていると言えるでしょう。
 また、カレーショップの店主と吉田さんの間で繰り広げられるミステリ談義も、コミカルでありながらもミステリファンなら少なからず頷いたりナルホドと思ったりする論議が盛り込まれています。
 ただ、記憶喪失の吉田さんの自身の謎というのは、わりとあっさりと片付けられていますし、最後の方はどうも、長編のネタを無理に短編にまとめ上げてしまったようなところも無きにしも非ずといった印象を受けるのは残念でした。
 ですが、話としてはこの1冊で一区切りにはなっていますが、是非ともこの先も色々な作品を「もどいて」欲しいという期待値は非常に高い作品です。