都筑道夫 『退職刑事1』

退職刑事 (1) (創元推理文庫)
 刑事を退職し、息子たちの中で唯一自分と同じ刑事になった主人公の元へ顔を出しては、かつての現役生活で味わった空気を感じ、そして息子の語る事件の顛末を聞くと、その話の中から真実を見つけ出す安楽椅子探偵のシリーズ。「写真うつりのよい女」「妻妾同居」「狂い小町」「ジャケット背広スーツ」「昨日の敵」「理想的犯人像」「壜づめの密室」の7編を収録した、シリーズ短編集の第1巻。

 著者自身が提唱するところの「論理のアクロバット」「トリックよりレトリック」という手法の結実したシリーズであり、全編に渡って安定したクオリティを維持する、まさにロジックによって紐解かれる本格ミステリ
 安楽椅子探偵物の短編であるということで、奇抜で大掛かりなトリックよりも、レトリックによって作中の人物と読者が見落している真相をロジックにより解明するという手法の魅力が最大限に引き出されていると言えるでしょう。
 ただ反面、こうした様式においては(作中における事件が起こっている)現実との間にもワンクッションが置かれており、臨場感や物語性というものに薄く、淡々とロジックだけで起承転結が終始するという弱さもあるのは事実でしょう。ですがそうした弱さを持ちながらもなお、本書は論理のアクロバットの面白さによって、時代や流行を超えて評価される作品であると言えるかも知れません。
 現職刑事の息子と退職刑事の父という人物配置がしっくりと行き、普遍性のある和製安楽椅子探偵のシリーズを作り上げています。