道尾秀介 『ソロモンの犬』

ソロモンの犬
 智佳に片思い中の秋内、無愛想な京也、京也と付き合っているひろ子、ひろ子の友人の智佳。同じ大学に通う四人は、幼い友人の陽介が交通事故に遭う瞬間を目撃してしまいます。その際、陽介が散歩をしていた芝犬のオービーの不審な行動が気になった秋内は、動物生態学を教えている助教授の間宮に相談します。どこかギクシャクとする京也とひろ子、そして智佳のことを気にしながら、秋内は陽介の事故の裏にあった真相に徐々に近付いていきます。

 飼い犬の取った不審な行動の謎という、些か地味な謎の解明が本作のミステリ部分における中心となります。ですがこの謎から真相に導かれるまでの伏線は、四人の学生たちの心の揺れと、現場に集束した人間関係が見事に結び付き、実に綺麗なまとまりを見せています。
 謎としては決して大きなものではないものの、犬の習性と現場のシチュエーションを融合させ、そこから登場人物たちの秘めた心情までも暴き出す手際のあざとさは一読に値するもの。
 また、奥手過ぎるほどに奥手で全く洗練されていない秋内の泥臭さい恋愛や、一見上手く行っていたのに徐々に複雑な思いが見え隠れしてくる京也とひろ子の関係により描き出される青春小説として、本作は高い完成度を誇っていると言えるでしょう。
 どこまでも垢抜けない秋内を物語の中心に持って来たからこその本作の持ち味は、それ自体評価されるものであり、一抹のやり切れなさと爽やかさのバランスの良さにおいても高く評価されるものでしょう。